
ソフト力向上こそ、
観光立国実現のカギ
- たかはしえつろう
高橋悦郎
- 取締役投資運用本部長
国内の総合ディベロッパーにおいて、複数の複合用途の再開発事業 / 街づくりPJに携わった後、2019年に星野リゾート・アセットマネジメントに入社。入社後、ホテルの取得、運用、売却業務に従事。
“街をつくる”というダイナミズムと大義を超えて
入社までの経歴を教えてください
過去に2社で不動産ディベロッパーを経験し、当社が3社目となります。1社目最初の配属では、リーマンショックの後遺症がまだ残る中、私募ファンドのアセットマネジメントを主に担当していました。その後、不動産市況が徐々に上向いてきたため、企画・開発職となり、以来、ずっと開発畑で仕事をしています。開発といっても単売(単純売買)を繰り返すモデルではなく、10年後20年後の竣工を目掛けて物件を作っていく大きなプロジェクトの最初5年を担当するような形でした。“街をつくる”と表現しても過言ではないほどの規模でしたので、10年かけてでもやり切る価値のある仕事でしたし、街に新しい価値をもたらす非常にダイナミックな仕事だと感じていましたので、モチベーション高く取り組んでおりました。
さらに日本を代表するターミナル駅に程近いエリアの開発にも携わっておりましたが、人口減少などにより、国力の成長鈍化が危惧される日本において、アジアの主要都市たちに負けない魅力を作るために東京をより魅力的な街にするという点でも素晴らしい仕事でした。
ですが、巨大なプロジェクトであるゆえ、行政や街の住民、不動産オーナーとステークホルダーも増えていきますので、その特性上、どうしても小回りが効きづらく、スピード感を出しづらいことも、ままあります。憧れていた業界でしたが、働いていくなかで、徐々に自分の理想とする働き方が形作られていくと、もっとフィットする仕事があるのでは?と、考えるようになり、新天地を求めて、現在に至ります。

なぜ星野リゾート・アセットマネジメントだったのでしょうか?
私の理想の働き方の一つに、「意思決定を素早くし、スピード感を持って仕事をしたい」というものがあります。新天地を探しているときも、その点は非常に重視していました。その時に目を通した当社の開示情報に、30代の取締役を見つけたのです。年功序列な組織ではなく、独自の観点で意思決定が働いているのだろうな、と思いましたね。若い社員でも、今以上に活躍できるかもしれないと推測し、入社を決意しました。実際、入社後の印象もそのとおりでしたね。まだアイデア段階の相談でも代表の秋本は耳を傾けてくれますので、議論した結果、優先度を落とすこともあれば、組織としてGOと判断すれば実現に向けて進める。顔が見える組織規模ゆえ、コミュニケーションもコンパクトですし、無駄な作業も発生しません。
「意思決定の早さ」は、この会社らしい魅力なんですね。
もう一つ、この会社の特長だと感じるのは、「手を挙げれば至るところにチャンスがある」という風土です。私は入社2年ほどで本部長に、30代で取締役に抜擢いただきましたが、当時行われていた社長面談の際に今後のキャリアイメージを聞かれ、私の方から本部長の希望を伝えました。その後、経験を積ませてもらい、本部長を拝任しましたが、ベースには「やりたい人に任せる」という考えがあります。意思決定までのプロセスには入社当時から参加できていましたし、話し合いの過程において肩書き関係なく意見を求められます。入社してすでに私の理想とする仕事の仕方に近づいていましたが、本部長や取締役として意思決定のプロセスにより深く関わっていけることは私が望んだことであり、非常にやりがいを感じました。さらに管理職になることで期待していたのは、より責任あるポジションに就くことで対外的な信頼も高まり、情報が集まる仕組みを構築しやすいことでした。情報がより多く集まれば、事業や経営にインパクトのある一手を考えられる機会が増えるだろう、と。
この特長は、当社に限らず、星野リゾートグループ全体で言えることです。星野リゾートでは総支配人は立候補制を採用しています。つまり、個人の希望や成長欲求を考慮した、従業員ファーストな設計がなされていると言えるかもしれませんね。
もちろん、完全に自由にしては混乱が生じますが、手を挙げられる環境があり、それを応援する空気が醸成されているのは、私にとってとても魅力に映っています。
オペレーショナルアセットの魅力とポテンシャル
前職では住宅や商業施設などのアセットを扱ってきましたが、ホテルアセットの魅力はなんでしょうか?
オペレーターの能力次第で収益が変動する、オペレーショナルアセットであるというひと言に尽きます。不動産屋的常識では考えられないような立地やハードでも高い収益性、高い不動産価格を形成可能な点が非常に面白いです。例えば星野リゾートでは『青森屋』という施設を運営していますが、ホテルの収益還元で物件価格を算出すると、都心の不動産よりも価格がついてしまうという事象が起きるんです。これはオフィスやレジデンシャルではまずあり得ないことで、サービスやオペレーションによって価値が創造されていることがわかりやすい一例だと思います。観光産業は日本の数少ない成長産業の一つだと考えていますが、ホテルアセットはまだまだポテンシャルを発揮できると思っています。例えば、地方には良い立地なのだが競争力を無くしたオフィスが数多くあります。そのような物件をホテルにコンバートしていくのは事業性が成り立つと思いますし、賑わい創出にも寄与し、面白いと思います。
日本の観光産業をより盛り上げていくために、どんな取り組みが必要だとお考えですか?
星野リゾートグループは、都心のみならず、地方にリスクマネーの供給拡大を行っていく役割を負っていると思っています。地方部でホテルを作り、地域における観光産業を支えることで、観光交流人口の増大によって地域創生にも貢献できるはずでしょう。そしてそれをREITが取得するモデルを作ることによって、今まで投資があまりされてこなかったエリアに投資を促進するような流れを作ることにも繋がっていると考えています。このように、民間企業として産業を盛り上げ、収益を生み出し続けていくことが、すなわち日本の経済を立て直すきっかけの一助になるという気概で、新しいことに挑戦していきたいと思っています。

“質”を磨けば、日本の観光産業はさらに価値を発揮できる
日本の観光産業において課題に感じていることはありますか?
現状では質より量を求めてしまっているのが日本の観光業界だと思っておりまして。「インバウンド需要で6,000万人を目指そう!」というわかりやすい掛け声も必要ですが、そればかりでは消耗合戦から抜け出せません。量ではなく、質をウリにする観光やホテルを提案していかなければ、持続可能性が下がってしまい、自分たちの首を絞めかねません。文化的な豊かさや自然的な豊かさを提供し、そのサービスや価値に見合った値段設定をしていく。すべてがそうである必要はありませんが、量を求めた結果のワンオブゼムの施設では差別化できないことも、また事実です。この意識はより広く日本の観光業界に浸透していかなくてはと思っています。
定量目標は足並みを揃えやすい一方で、価値を最大化するためにはそれだけでは足りないのですね。
“質”を突き詰めてホテルの魅力をさらに輝かせ、持続可能な集客力を高めるという難題こそ、民間企業同士が知恵を出し合って切磋琢磨する領域ではないでしょうか。価格でしか勝負できない世界は、消耗合戦でしかありません。星野リゾートではハード依存のモデルこそ後発が有利で、ソフト力勝負の企業こそ先発企業が有利だと考えておりますので、歴史の長い自分たちの強みであるサービスを磨くことで付加価値を高めていくことに注力しています。ただ、先程も申し上げたように、こればかりが正解だとは考えておりません。各社が知恵を絞り、選ばれるホテルを目指して切磋琢磨できれば、日本の観光産業はもっとポテンシャルを発揮できると考えています。私もREIT所有物件を「魅力投資」することで、もっとお客様に選ばれるような施設をつくっていきたいと思っています。
今後、挑戦していきたいことや展望があればお聞かせください。
現在の取得価格ベースで申し上げると、私たちは現在約2,000億円という規模になりました。そして2026年までには3,000億円まで成長させることを直近では目標にしております。この目標を達成するために、「良いホテルを見つけ出し、投資を実行すること」「良いホテルに投資するための仕組みをつくること」に腐心しています。そして、さらにその後は、星野リゾート・リートを成長させていくことに引き続きコミットすることと合わせて、新たな商品開発にも挑戦したいと思っています。
あくまで例にはなりますが、特定の地域にだけ投資したいという投資家様がいた場合、そういったニーズに対応できるファンドを組成して投資環境を整備するという手もあるかもしれませんし、海外の不動産やホテルに特化したファンドだってありえます。スポンサーである星野リゾートはホテルオペレーターですが、当社はアセットマネジメント業という金融業種であり、不動産業種ですので、グループの中で我々がバリューを出していくためには、ファンドの規模を増やす、もしくはファンドの種類を増やすことによって運用報酬を高め、グループに貢献していくということだろうなと思っています。運用会社としての稼ぐ力をつけていくっていうことが重要だと思っています。そういう、まだ見ぬ挑戦はぜひしていきたいですね。
ワカモノインタビュー
前職が不動産ディベロッパーという共通点を持ち、ともに投資運用本部に所属する2人。産休・育休を経て、最近復帰した小野が、インタビュアーを務める。

小野:高橋さんはなんでも得意な印象があるんですが、苦手な業務はあるんですか?
高橋:もちろんありますよ(笑)。新しい事業や戦略を考えたり、自分がまだやったことのない領域に挑戦するような、戦線を拡大していくことは好きなんですが、専門的に狭い領域をひたすら粛々と進めるような仕事はちょっと苦手ですね。会社組織の中でも、概念的に分類すれば“攻め”と“守り”の業務に分けられると思いますが、私は攻めの方が得意ですね。書類作成や事務仕事はあまり得意でないかも。むしろ、しなくて良いなら、得意な人に任せたいです(笑)。
小野:仕事で悩んだときは、どうやって突破口を見つけていますか?
高橋:そもそも社会人としてあるべき姿だと思うんですが、すぐに報告・相談すること。報告すると一気に肩の荷が下りるんですよ。自分で持ちすぎないことって、とても重要。そこから突破口を考えますが、私は自分一人で全部できると思っていないので、適切な場面で適切な人に相談するっていうのが一番重要だと思っています。「どんな局面で誰に意見を求めるべきなのか?」を日頃から理解していると、いざという時に効いてきます。とはいえ、最後は自分の熱量なので、相談しつつも「本当に他の道は残されてないの?」ということを必死に考える。メンタル的には「別に死ぬわけじゃないし、気楽に考えるか」っていうぐらいの気持ちでやると、結果的にうまくいくっていうことが多かったですね。そんなメンタルで仕事しているので、正解がない場合は「迷ったら面白そうな道を選ぶ」ことを繰り返してきました。ただ、繰り返しですが、社長以外は報告すれば、もう自分の責任が軽くなるので(笑)。やばいなって思ったときはまず報告するっていうのが一番いいんです。
小野:先日まで産休・育休を取得し、今は育児との両立で在宅勤務をさせてもらっていますが、経営的には休暇中の従業員の代替要員を確保したりと調整が大変なことも多いと思います。とても感謝している一方で、40人程度の組織では難しそうに見えるのですが…
高橋:まず業務が増えている状況は会社が成長している証だから、素晴らしいことであるということが大前提ですよね。そのうえでお話しすると、まだまだ創業10年の成長途中な会社ですから、組織や制度も未熟なところがあるのは事実で、難しさは感じています。だけど、時代の変化に伴って、企業のあるべき姿やスタンダードが変わっていく。そのときに、スタンダードを適用できない企業は、ただ淘汰されていくだけだと思っています。「制度の運用が難しい」と考えること自体がナンセンスで、運用しなければならないものだし、本質的に取り組むべきことだと思っています。これは産休・育休に限らず、社会の変化に適応できること自体が企業の競争力だと考えているので、真摯に取り組める会社であり続けたいです。その結果、求職者や従業員から選ばれる企業になるだけでなく、副次的に社会やステークホルダーの皆様からの信頼にも繋がるのかなと思っています。
- 小野さん
- 投資運用本部
アセットマネジメント2部
ワカモノプロフィール
2020年入社。アセットマネジメント2部でマネジメント業務を担当。1年ほどの産休・育休を経て、現在はフルリモート・時短勤務を活用し、子育てをしながら同ポジションで活躍する。